安くて美味しいブラジル産の鶏肉ですが、ブラジル産の鶏肉というだけで敬遠する人もいます。
先入観だけでブラジル産鶏肉を敬遠する人がいるのは嘆かわしいことです。
「ブラジル産の鶏肉はブロイラーだから不味い」とか「ブラジル産の鶏肉はなんだか不安・・・。」といった声を聞きますが、本当にそうなんでしょうか?
今回はブラジル産鶏肉について色々と調べてみました。
また、記事を読むのは面倒!という人向けに動画も作ってみました。
動画初心者なので低クオリティかもですが大体同じような内容なので動画で見たい人はコチラをどうぞ
ブラジル産鶏肉は本当に危険なのか?
結論から言います。
私が調べた限りでは、ブラジル産鶏肉の危険性は国産鶏肉となんら変わりません。
それこそスーパーで購入するブロイラーの国産鶏肉とブラジル産鶏肉は品質において違いなどほとんどないと思います。
まず前提として、国産鶏肉もピンきりなので、ブラジル産鶏肉と比較するのはブロイラーの国産鶏肉とします。
分かりやすく例に挙げるなら、スーパーで100g70円で売られているブラジル産若鶏と、100g100円で売られている国産若鶏の比較です。
※ブロイラーとは?
ブロイラーとは、短期生産を目的として作られた鶏の品種。
「若鶏」と表現されることもある。通常の鶏が成鶏となるのに必要な期間は4~5ヶ月だが、ブロイラーの場合は40~50日。
スーパーで売られている若鶏表記はほとんどブロイラーと考えてOK。
ブロイラー=ブラジル産鶏肉では無いので勘違いしない事。
ちなみに、ブロイラー・銘柄鶏・地鶏(親鳥)の違いについては、以下がわかりやすいです。
それではブラジル産鶏肉の噂を検証していきましょう。
ブラジル産鶏肉はどうして安いのか?
ブラジル産鶏肉は安いから危険!
ブラジル産鶏肉が安いのには訳がある!
といった声やネット記事を見かけますが、なぜブラジル産鶏肉は安いのでしょうか?
答えは単純明快です。土地代・人件費・飼料費が日本に比べて圧倒的に安いからです。
同じ養鶏でも日本とブラジルではかかる費用が段違いです。広大な土地による大規模畜産が日本ではそもそも不可能です。
飼料となるとうもろこしや大豆の生産量もブラジルは世界トップクラスなので安く調達できます。
日本では大豆やとうもろこしといった飼料は約90%を輸入に頼っています。
さらに言えば、船舶による冷凍大量輸送、もも肉の需要が少ない点、地理的条件により鳥インフルエンザのリスクが無いことなども挙げられます。
これらがブラジル産鶏肉が安い理由です。
遠いブラジルから運んでいるのに・・・と思うかもしれませんが牛肉や豚肉もアメリカやオーストラリアから輸入されています。大きな差はありませんよね。
冷凍技術が発達した現在では品質の劣化もほとんどありません。
また、ブラジル産鶏肉はもも肉しか見たことありませんよね?
意外かもしれませんが、実は世界的にみるともも肉よりむね肉の方が人気なんです。
もも肉はあまり需要が無いため日本は安く輸入することが可能なんですね。
逆に、むね肉は日本では人気が無いため国産価格が安く、ブラジルでは価格が高いため、輸入するメリットがありません。
鳥インフルエンザは価格が安い事の直接的な要因では無いですが、世界の鶏肉市場でブラジル産鶏肉が躍進した理由の一つです。
ブラジル産鶏肉は薬漬けなのか?
『ブラジル産 鶏肉』で検索すると、一番上にこの記事が表示されます。
とんでもない言いがかりです。このNAVERまとめの記事は内容が適当すぎるので鵜呑みにするのはやめましょう。
『ブラジル産鶏肉は抗生物質やホルモン剤で無理やり成長させられている』
『ブラジル産鶏肉は毒肉と呼ばれブラジル人でも食べない』
このようなデマを未だに信じている人もいるようで悲しいことです。
『ブラジル産鶏肉は薬で無理やり成長させられている』はウソ
はい。完全な風評被害です。
ブラジル政府は鶏に成長ホルモンの入った飼料を与えることや注射などで成長ホルモンを投与することを禁止しています。
『ブロイラー=ブラジル産鶏肉』と勘違いしている人が信じがちですが、前述したようにブロイラーとは生育期間が早くなるように品種改良された品種であり、日本で『若鶏』表記される鶏肉もほぼ全てブロイラーです。
早く成長するのはそういう品種だから、ただそれだけです。ブラジル産も国産も変わりません。
ブラジル政府など信用できないと思うかもしれませんが、養鶏産業において生産量、輸出量共にトップクラスのブラジルは完全に日本より養鶏先進国です。食品生産基準に厳しいEUの基準をクリアしているレベルです。認識を改めましょう。
病気を予防するための抗生物質はブラジル政府のガイドラインに従っての投与が認められています。しかし抗生物質の(ガイドラインに沿った)投与は日本の養鶏でも当たり前に行われていることであり、ブラジル産鶏肉に限った話ではありません。
※抗生物質は人の口に入るまでに全て消化されるように厳格に定められています。
ですから、ブラジル産若鶏が薬漬けだとするならば、国産若鶏も薬漬けだと言わなければミスリードです。
このデマの背景には、アメリカの養鶏産業の歴史があると思います。
アメリカの養鶏産業の歴史を振り返ると、1940年台に鶏の飼料に抗生物質を投与することで生育が早くなる事が発見されてから、2016年頃とつい最近規制されるまで抗生物質を成長促進の為にドバドバ使用していたようです。(ブラジルや日本でかつてどうだったかはちょっとわかりませんでした。)
調べてみると、抗生物質を飼料と一緒に与えることで生育が良くなるというのは、畜産に携わる人達の間では常識とされていることのようです。(ただしメカニズムは良く分かっていない。)
何も知らずに文面だけを見ると「抗生物質で成長促進!?何かヤバいんじゃ・・・」と思ってしまいそうな内容です。
しかし抗生物質が食肉に残留するわけではありませんし、成長促進のメカニズムも以下のように考えられている為、必要以上に怖がる必要はないと思います。
なぜ微量の抗菌薬を餌に混ぜて給与すると増体効果が得られるのでしょうか?結論をいえば残念ながら今でも良くメカニズムがわからないのです。考えられる機序としては、低濃度でも抗菌薬なので腸内細菌を減少させ、発酵生産物の生成を抑制することで、解毒のためのエネルギー消費を軽減することが考えられます。また、腸管内の有害細菌を減少させ細菌が産生する毒素などの成長阻害要因を抑制することなども考えられます。
https://cvdd.rakuno.ac.jp/archives/2873.html
抗生物質をガイドラインに従って投与している若鶏が危険かどうかの判断は個々に任せますが、少なくともブラジル産鶏肉だけを避ける理由にはなりません。
『ブラジル産鶏肉は毒肉と呼ばれブラジル人も食べない』もデマ
ABPA(ブラジル動物性タンパク質協会)によればブラジル産鶏肉の約70%が国内市場向けに出荷されており、一人あたりの鶏肉年間消費量は39kg。
ブラジル産鶏肉は自国民でも食べないというのは完全にウソですね。当然っちゃ当然ですが。
ちなみにNAVERまとめの記事から毒肉のソースであるリンクに飛んでみると以下のようなサイトに飛びます。
ソースと思われる部分のスクリーンショットですが毒肉と呼ばれている根拠は特に明示されていません。しかも露骨なアフィリエイトサイトです。
アメリカの輸入禁止の記述も2016年まで抗生物質を成長促進として与えていたアメリカの実態とかけ離れています。
Googleで『ブラジル 毒肉』と検索をかけても、同じように根拠を明示しないブログや胡散臭いアフィリエイトサイトしかヒットしません。
念のため英語で『brazil poison chicken』などのキーワードで検索をかけても該当するような結果は特に出ませんでした。本当に毒肉などと呼ばれているのでしょうか?
毒肉とか意味不明なことをさも本当のように書いているブログメディアは訴えられても文句言えないのでは?
ブラジル産鶏肉はEUやアメリカで輸入停止となっているのか?
この件に関してはまずブラジルの食肉不正問題について知らなければなりません。
ブラジル不正食肉問題
2017年、ブラジルの食肉加工業者が検査官に賄賂を送り、衛生基準を満たさない食肉及び加工品を出荷していた問題。各国がブラジル産鶏肉の輸入を一部停止した。
また、2018年、ブラジルの食肉加工業者が食肉サンプル検査データ改ざんをしていた問題。
EUでは一部工場のみ輸入禁止
ブラジル産鶏肉が現在EUで輸入停止となっているという言い方は誤解です。
2017年に食肉不正が発覚してからEUは問題とされる食肉加工施設4カ所からの輸入を禁止し、2018年に食肉加工施設20カ所からの輸入を禁止しました。
この結果、68工場あった鶏肉のEU向け輸出認定施設の約3分の1に当たる20工場が今回認定を取り消され、うち12工場がBRF社およびその関連会社であるSHB社の施設となっている。
とあるので、EU向け輸出施設の約3分の1が輸入禁止となったのであって、EUは現在もブラジル産鶏肉を輸入しています。
ブラジル産鶏肉がEUで輸入されていないとするのは明らかなミスリードです。
付け加えるなら日本産鶏肉はそもそもEUでの輸入が解禁されていません。
EUは食品の生産基準がかなり厳しいです。輸入食品に対しても厳格な生産基準が求められます。
むしろブラジル産鶏肉は輸入基準を満たしているので日本産鶏肉より安全とさえ考えられます。(コスト面や国の方針もあるので一概には言えませんが。)
アメリカが輸入停止しているのは事実だが・・・
アメリカがブラジル産鶏肉を輸入していないのは事実です。しかし毒肉だからと言った意味不明な理由ではありません。
アメリカは世界最大の鶏肉(ブロイラー)生産国であり消費国、そしてブラジルに次ぐ鶏肉輸出国です。そもそも鶏肉を輸入する必要がありません。(ブラジル産が米国産に比べ大きく価格優位性がある訳でもない)
アメリカは主要産業である肉類の輸入には厳しく、鶏肉の輸入を許可している国は特に少ないです。日本も輸入許可は出ていません。
また、アメリカは2016年に規制されるまで成長促進のための抗生物質を容認していたのでブラジル産鶏肉をどうこう言える立場では無い気がします。
ブラジルと日本の養鶏
鶏の生育環境に関しては、日本とブラジルを比較するとブラジルのほうが優れていると言わざるを得ません。
畜産動物保護のみを比較すると、ブラジルがBランクであるのに対して、日本の格付けはDランクと世界でもかなり低い水準です。
世界ではアニマルウェルフェア(動物福祉)の観点から過度に窮屈なケージ飼育を減らしたり、ウインドウレス(窓なし)鶏舎の廃止といった動きが進んでいるのに対し、日本ではあまり進んでいません。
アニマルウェルフェア(Animal Welfare)とは、感受性を持つ生き物としての家畜に心を寄り添わせ、誕生から死を迎えるまでの間、ストレスをできる限り少なく、行動要求が満たされた、健康的な生活ができる飼育方法をめざす畜産のあり方です。欧州発の考え方で、日本では「動物福祉」や「家畜福祉」と訳されてきました。
日本のように土地の狭い国はそもそも畜産に向いていないので、アニマルウェルフェアに則った養鶏をすると鶏肉と卵の価格がおそらく2〜3倍位になってしまいます。
私は価格が高くなってもいいからアニマルウェルフェアを支持する!とは胸を張っては言えません。消費者にとっては安いほうが嬉しいですから。
しかし、世界の動きがアニマルウェルフェアに流れている今、日本も先進国としてアニマルウェルフェアの方向に舵を切らなければならないかもしれません。(先進諸国に畜産後進国と非難される為)
アニマルウェルフェアに関しては政治・経済・文化・消費者の理解が複雑に絡むのでとても難しい問題です。
日本でアニマルウェルフェアが浸透する時は、消費者がそれを望む時だと思うので、まだまだ時間がかかりそうです。
ブラジル産若鶏の誤解はとけた?
今回の記事を書いた理由は、ブラジル産鶏肉について調べるうちに、間違った解釈が浸透しているのではないか?という疑問を抱いたからです。
ブラジル産と国産、どちらの鶏肉も品質において大きな差は無いと思います。むしろブラジル産若鶏のほうが生育環境が良い分、高品質かもしれません。
ブラジルの一部の鶏肉加工業者に不正問題があったのは事実です。
しかしブラジル政府は厳格な対応をしていますし、日本政府も不正問題以降、輸入されるブラジル産鶏肉に対してより一層厳しい検査をしているので国内流通しているブラジル産鶏肉の危険性は限りなく低いでしょう。
どっちを買うの?と聞かれたら
ブラジル産若鶏と国産若鶏のどちらを買うか?と聞かれたとき、私が購入するのは現状安いブラジル産若鶏です。
安全性に問題がないのなら私にとってはどちらも大差ありませんから。
問題なさそうだし安いほうがいいよね!という人はブラジル産若鶏を。
それでもやっぱり食肉不正が不安、という人は国産若鶏を。
抗生物質は怖い!という人は無薬飼育の銘柄若鶏を。
そもそもブロイラーってどうなのよ?という人は地鶏や親鳥を。
いろんな正しい情報を知った上で、個々人が判断すればいいと思います。
ブラジル産鶏肉を間違った解釈で避ける、という事がなくなるといいですね。